いつの間にか空の色合いが変わって、朝晩の風がひんやり冴えて来た。
空気が乾き、風は清かに吹き抜けて、
稲穂は金色に輝いて収穫されるを待つばかり。
お盆からずっと怪奇なイベントCMが流れているハロウィンも、
本来はこんな空の下で支度されるのが相応しい代物で。
「昨夜の十五夜も綺麗に望めて。」
「ええ本当に。」
島田せんせえの原稿を取りに来た編集者の林田へ、
ほうじ茶と栗の甘露煮を載せた手製のおはぎもどきを出しながら、
にっこりと目を細めて笑った七郎次だったが、
「あ、こら久蔵。」
小さなお手々を縁に引っかけての後足立ち、
にゃぁ〜んとお顔をテーブルの縁から覗かせ、
お客様への小皿をじいと見やる仔猫さんに気がついて。
何を狙っているのやらと苦笑をし、
「ほら、ヘイさんから頂いたケーキがありますよ?」
久蔵はこっちも大好きでしょうにと、白い化粧箱からモンブランを取り出せば。
がささというアルミホイルの縁が騒ぐ音にお耳をふるると震わせ、
パッと振り向いたそのまま、小さな仔猫は色白な母上の手元へ一目散し。
綺麗な手が手際よく皿へと移す栗のクリームが盛られた小さなケーキへお顔を寄せる。
「みゃあぁ〜vv」
「判った判った、
その勢いのまま顔から突っ込むのはなしだよ?」
そうと掛けられた言葉が通じているものか、
お手々へたしたしと前脚でのタッチするだけにとどめるいい子なのへ、
苦笑交じりにはいはいと愛想たっぷりに応じてやり。
もう一つ、そちらはスフレケーキを別の小皿へ。
二つを可愛らしいラグを敷いた上へと並べて、
クロちゃんと声を掛ければ。
ソファーの裏にいたらしい黒猫が、
にゃんと鈴を転がすような声で返事をしつつ飛び出すのもお約束。
「慣れたものですねぇ。」
「ええ、それはいい子ですから。」
とたとたと追い駆けて来た小さな弟分とともに、
柔らかな生地の上へソフトに盛られた栗のクリームを、
小さなお口でかプかぷと食べ始めるメインクーンちゃんは、
小鼻へくっつくのを時折舐めとりながらもなかなか慣れた様子で食しておいでで。
横取りを狙われていたらしい栗の甘露煮、黒文字の楊枝で刺して食しつつ、
それを眺めて平八がほこほこと笑って見せて、
「くっついてもしばらく気がつかないんじゃあ。」
「毛並みの色合いが似てますものねぇ。」
あははと微笑った七郎次も、
お持たせのバウムクーヘンをご相伴になりながら、
ここ最近のおチビさんたちの話を供す。
秋は何かと楽しくてしょうがないらしくて。
ハロウィンに向けて彫ったかぼちゃのランタンにも
一日一度は潜り込んでいますし、
猫の尻尾のようなエノコログサの茂みへ飛び込んでは、
小さなバッタが飛び出すのへ右往左往して揶揄われておりますし。
フワフワな毛並みをまとわしたお尻尾がゆらゆら揺れてる仔猫さんだが、
七郎次には小さくて愛らしい和子にしか見えず。
小さなお手々にクリームつけたの、ありゃりゃあと気づいてぺろぺろ舐めてる。
指の股を開いて1つ1つ舐めているので、
柔らかな頬へ余ってた指の先っちょでツンツンと突いては
そちらへクリームを塗りたくっていることに気づいていないらしく。
「?? にゃ?」
何かくすぐったいなぁと気づいてか、
何処だ何処だとまだクリームまみれの手でぬすくる悪循環。
「あーあー。べとべとになっちゃって。」
「久蔵、やめなさいって。」
急いで濡れ布巾を持ってきた七郎次にむぎゅむぎゅとお顔を拭われ、
にゃーにゃ―もがく、やんちゃな坊や。
成長したよで、相変わらずで、
そんなこんなに大人たちがうくくと吹き出す、和やかな秋のひとこまでございます。
〜Fine〜 17.10.05.
*陽が落ちれば、そりゃあ凛々しい大妖狩り様ですのに、
昼間のパパはちょっと違いますvv
「…… 」
「誰がパパだ、誰がと言いたいらしい。」
クロさん、通訳馴れてきました、はい。
ヒョゴさん、楽できてよかったねvv
めーるふぉーむvv


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